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地域に根差した農業

㈱冨貴食研農産事業部

地域に根差した農業

MUSOグループの食品メーカーの一つである株式会社冨貴食研では、数年前から大阪府豊能郡豊能町に圃場を確保し、商品の原材料となる米や野菜を自ら育てる取り組みを進めています。
メーカーとして原材料の確保は大切な生命線の一つ。しかし、それだけではないのです――
そう語るのは、株式会社冨貴食研 代表取締役の岡田恒周社長。
その背景と、地域とのつながりを伺いました。


―冨貴食研で農業を始められた経緯を教えてください。

 商品開発を通じてご縁のあった会社から、体験型農園に参加してみませんかというお話をいただいたのがきっかけでした。そのとき初めて豊能町を訪れたのですが、それが2020年、ちょうどコロナ禍の真っ最中でした。
 実際に行ってみると、棚田の風景が美しく、そばには神社もあり、懐かしい田舎の原風景が広がっていました。すぐに心惹かれ、体験農園で数畝を借りて農作業を始めたところ、周りの方や自治体の方々と知り合うようになり、2021年には一反(10a、300坪)の耕作放棄地を貸していただけることになりました。

―とてもスムーズに進んだのですね。

 そうなんです(笑)。
 行政から農地を借りるために農業大学校で講習を受けて修了証を取得し、届出をして本格的に圃場を借りることになりました。そこからは、木を切り石を取り除き排水性を改善し土を耕して畝を立てるといった、ほとんど開拓に近い作業を進めていきました。
 当初から有機農法で取り組んでおり、肥料には綿実油の搾りかすや、当社の「有精卵マヨネーズ」を作る際に出る卵殻を土壌のカルシウム資材として活用しています。これまで産業廃棄物として処分していた卵殻を再利用でき、社内でも一つ循環が生まれました。

開墾作業の様子
開墾作業の様子

―当初の数畝の体験型農園から一気に広がっていったのですね。

 周囲の農家さんからも「この土地も使ってみたらどうか」と次々に声をかけていただきました。そのこともあり、豊能町での農業を原料確保の一つとして本格的に位置づけるようになりました。
 2022年には農産事業部として専属社員を1名採用し、さらに圃場を拡大。再び開墾作業を行い、2023年には計5反を借りるようになりました。

―当時はどんな作物を育てておられたのですか?

 当社で加工用原料として使用する野菜を中心に、玉ねぎ・ニンニク・人参などを4反で育て、残りの1反ではお米を作っていました。当時は現在のような米不足ではなかったので、社員の稲作体験や餅つき大会で使えれば…という程度に考えていたのです。

―地域の理解を得るうえで、特に心掛けていたことはありますか?

 「地域の方々と共に進める」ことを何より大切にしてきました。そのためにも、時間を見つけて豊能町に通い、できる限りその場所に身を置くようにしていました。草刈りをしていても、自然と地元の方々との会話が生まれます。そうした日々の積み重ねが、私たちを知っていただき、信頼につながっていく——遠回りに見えて、実は唯一の道だと思っています。
 草刈り、農道の管理、水路の清掃や補修等、近隣の皆さんと共に汗を流す姿勢を大切にしてきました。それが、現在こうして多くの農家さんに応援いただける関係の土台になったと感じています。
 また、取り組んでいくうちに地域の想いを知る場面もありました。
 栽培ハウスを建てる計画をしていた際、近隣の農家さんから「この近くにはハウスを建てないでほしい」と話をしに来られたことがありました。お話を伺うとその方の家から棚田が美しく見えるとのことで、視界を遮らないようにしてほしい、とのことでした。実のところ、まったく別の場所でハウスを建てる計画をしていたのですが、豊能町の風景もこの土地の大切な財産ですから、その想いを尊重して農業を続けていく必要があると改めて感じた出来事でした。

―そこまでの話をしてもらえる信頼関係があったのですね。

 地元の方とのコミュニケーションの積み重ねはとても大事です。
 いまでは皆さんに大変かわいがってもらっていて(笑)、先日も早朝から草刈りをしていたら、ご近所の方が声をかけてくれてお茶を持ってきてくれたり、あるときには庭にたくさんなった柿を分けてくれたりね。農作業をしていくうえでもアドバイスをいただくこともあり、日々支えていただいています。

―現在はどんな体制で営農されているのですか?

 現在は月に1回社員全員で農作業を行っていますが、通常業務は農産事業部の2名が日々担当しています。私も手が空けば圃場に入っています。圃場は25反に増え、そのうち3反で「玄米ポタージュ」用の有機認証米を目指して本格的に生産しています。野菜もお米も、すでに手作業では追いつかない規模になっており、機械を導入しながら効率化を進めています。

地域に根差した農業
田植えの様子

―今後の展開や展望をお聞かせください。

 2022年頃、豊能町の高山地区で圃場整備が行われるという話があり、今後集約される予定の農地で営農しないかと打診を受けました。大変ありがたいお話でお引き受けし、昨年には自治体や農業委員会からお招きいただく形で住民説明会も行いました。ご理解もいただけ、来年から耕作を開始する予定です。
 また、豊能町では有機農業への関心が高まり、農業塾でも有機農法を学べるようになりました。当社の農産事業部の社員2名も通っています。将来的に豊能町が「オーガニックビレッジ宣言」を掲げることがあれば、ぜひ応援したいと考えています。豊能町産の有機野菜をMUSOグループで取り扱ったり、小売店様や一般の方向けに農業体験会を開催したりすることもできればと考えています。
 さらに視点を広げると、日本全体で農村の過疎化や農業人口の減少が深刻化しています。当社の取り組みの中で得られた生産性・収益性向上の知見を深め、モデルケースとして他地域にも応用できる形にできればと考えています。MUSOグループとしての原料確保だけでなく、「農」に関心のある人の働く場づくりや体験機会の創出、ひいては食料自給率の向上にも貢献できれば嬉しいですね。

取材協力:岡田 恒周(㈱富貴食研)
聞き手・構成:勝又 大輔(㈱MUSOホールディングス)