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入口から出口まで

MUSOグループの国内有機一次産業促進

入口から出口まで

「目の前の利益にはつながらないかもしれない。しかし、10年後に振り返ったとき、あのとき取り組んで良かったと必ず思える。益はなくとも、意義のある取り組みです」

国内有機一次産業促進プロジェクトが目指す姿は、この言葉に象徴されている。

MUSOグループにとって、国内一次産業への本格的な関与は、新たな挑戦である。
その背景には、グループ各社が連携し、持続的な成長と社会的価値の両立を目指してホールディングス化を決断したことがある。


新グループ体制における重点分野

 MUSOグループは、ホールディングス化にあたり、今後の成長戦略の柱として定めた重点分野の一つに、国内有機一次産業の促進を掲げた。
 これまでMUSOグループは、加工・流通・販売といった二次・三次産業を主軸に事業を構築してきた。一方で、国内の一次産業については十分に事業化できていなかった。このプロジェクトは、日本の有機農業への転換を支援・促進することで、グループとしての六次産業化を進め、事業基盤を強化するものである。食料自給率の向上や有機農業面積の拡大を掲げた、国の「みどりの食料システム戦略」(2021年)とも方向性を同じくする。
 こうした背景のもと、MUSOグループの新たな取り組みとして本プロジェクトは始動した。

北海道での取組み

 本プロジェクトにおける北海道での取り組みは、2022年12月、十勝・帯広地域の農家訪問から始まった。
 有機JAS認定事業者のリストをもとに、大豆や小麦、米などを生産する農家を一軒ずつ訪ねていった。作物の種類や作付面積、販路の状況を丁寧に聞き取りながら、MUSOグループが目指す姿を直接伝える。
 日本有数の農業地帯として知られる十勝地方は、広大な平地を生かした効率的な農業が行われ、有機栽培に取り組む農家も多い。すでに有機農業に取り組む生産者との対話を重ねるなかで、プロジェクトの趣旨に共感した農家から、これから有機に挑戦しようとする生産者を紹介してもらうこともあった。こうした積み重ねで、地域との信頼を少しずつ築いていった。

「とかちオーガニック振興会」での転機

 地道な活動が大きく前進する転機となったのが、2023年3月に開催された「とかちオーガニック振興会」の有機農業研修会への参加だった。
 同振興会は、十勝地方における有機農業の普及・促進を目的に2021年に行政が中心となって設立された。有機農業の先駆者である有力農家が企画構成員として名を連ね、知識や技術の共有、情報交換などを行っている。
 第2回有機農業研修会には、特別に参加者としてMUSOグループが出席した。研修会後半の情報交換会で、すでにMUSOグループと関係性を築いていた有力農家の一人が、自身の経験を交えながら販路確保の重要性を語り、会場に向けてこう紹介した。

「MUSOのような会社とつながらなければ、販路を自力で開拓するのは本当に大変です」

 この一言をきっかけに、十勝地方でのMUSOグループの認知は大きく広がった。
 また、同年12月に開催された「有機農業に関する勉強会」では、流通業者とのマッチングの場が設けられ、6社がプレゼンテーションを行った。プロジェクトメンバーはMUSOグループならではの強みを次のように訴えた。

「MUSOグループは、有機・転換を問わず加工品を作る技術、各加工メーカーとの強固なつながり、幅広い国内販路、海外45か国への輸出実績を有しています。原料調達から商品化、販売まで——入口から出口までを自社で完結できる。それが私たちの提供価値です」

MUSOグループが提供する支援——「入口から出口まで」

 慣行農業から有機農業へ転換する際、農家が直面する大きな課題は二つある。一つは転換期間中の作物の販路確保、もう一つは輪作作物の販路確保だ。
 有機JAS認証を取得するには、化学肥料や農薬を使用しない栽培を3年間継続する必要がある。この転換期間中の作物は「有機」同等として取り扱ってもらえないことも多く、有機栽培と同等のコストと労力をかけながら、有機JAS認証品と同水準価格で販売することは容易でない。
 また、栽培品目によって輪作は土壌を維持するために不可欠であり、有機農業では避けて通れない。大豆の次は小麦、さらにジャガイモと作物を替えるなかで、それぞれ異なる販路を確保する必要が生じる。
 MUSOグループの強みは、こうした課題に対し、グループ内で一貫した支援を提供できる点にある。ムソー㈱の販売網とPB商品開発力、㈱むそう商事のメーカーとの連携力を生かし、原料加工から商品化、販路確保までを担うことができる。
 転換期間中の作物については、「転換期間中」と明記したPB商品として流通させることも可能だ。輪作作物についても、メーカーと連携した新商品の開発により、安定した出荷先を確保できる。さらに、播種前に収穫量と買取価格を約束する「播種前契約」により、天候や価格変動のリスクを軽減し、農家が安心して有機栽培に専念できる環境を整えている。
 こうした支援体制を整えているのも、MUSOグループとして、この取組みを、単なる新たな原料調達先の確保としてではなく、生産者と伴走することを目的としているからだ。

3年間の歩みと今後の課題・展望

 MUSOグループが提携する有機農家は今では全国エリアに展開し、ネットワークも広がりつつある。MUSOグループが伴走してきたこれらの新たな有機農地の面積も、取組み開始から2年を経過した時点で、転換中の圃場を含め50ヘクタールを超えた。
 現在は、大豆、小麦、米など、保管や流通が比較的安定した作物が中心となっているが、将来的にはプロセスを体系化し、取り扱える作物の種類の拡大や商品レパートリーの拡充を進めていきたいと考えている。これらは、新たな有機農家との連携を進めるうえでの重要な課題であり、PB商品の開発と並行して取り組んでいく。
 3年前に始まったこのプロジェクトは、現在、提携農地面積100ヘクタールを目標に歩みを続けている。生産の入口から消費者の手に届く出口までを担い、「点」ではなく「面」で有機農家を支援する。その実践は、確実に形になりつつある。
 理念を掲げるだけでなく、現場で実装し、生産者とともに歩み続けること。MUSOグループはこれからも、「入口から出口まで」をつなぐ伴走者として、日本の有機農業の未来を支えていく。

取材協力:岡田 泰典(㈱MUSOホールディングス、㈱むそう商事)
構成・文:勝又 大輔(㈱MUSOホールディングス)